隠れた高生産性産業:佐世保のはん用機械器具製造業が示す強み
はじめに
佐世保市の製造業と言えば、造船を中心とした輸送用機械器具産業や、地域に根差した食品製造業が注目されがちです。しかし、データを詳細に分析すると、わずか12社、655人という小規模ながら、254億円もの製造品出荷額を生み出し、従業者1人あたりの生産性では全産業中トップクラスを誇る産業があります。それが「はん用機械器具製造業」です。本記事では、この隠れた高生産性産業の実態を詳しく分析します。
従業者1人あたり
年間出荷額
年間製造品出荷額
(全体の13.9%)
事業所数
(全体の4.8%)
従業者数
(全体の8.3%)
はん用機械器具製造業とは
「はん用機械器具製造業」とは、様々な産業で広く使用される汎用性の高い機械を製造する産業です。具体的には、ボイラ、原動機(エンジン)、ポンプ、圧縮機、送風機、運搬機械、冷凍機・空調装置、ベアリング、バルブ、油圧・空圧機器などが含まれます。
これらの機械は、製造業、建設業、農業、鉱業など、あらゆる産業で使用される基盤的な設備であり、高度な技術と精密な加工が要求される分野です。佐世保市では、造船業や重工業の集積を背景に、この分野の技術が発展してきました。
圧倒的な生産性の高さ
はん用機械器具製造業の最大の特徴は、その生産性の高さです。従業者1人あたりの年間製造品出荷額は約3,881万円に達し、これは製造業全体の平均2,302万円の1.7倍、実に68.6%も高い数値です。
| 産業分類 | 事業所数 | 従業者数 | 製造品出荷額 | 1人あたり出荷額 | 全体平均比 |
|---|---|---|---|---|---|
| はん用機械器具 | 12社 | 655人 | 254億円 | 3,881万円 | 168.6% |
| 輸送用機械器具 | 60社 | 2,367人 | 611億円 | 2,581万円 | 112.1% |
| 食料品製造業 | 49社 | 1,767人 | 294億円 | 1,664万円 | 72.3% |
| 電気機械器具 | 7社 | 622人 | 71億円 | 1,134万円 | 49.3% |
| 窯業・土石製品 | 19社 | 308人 | 87億円 | 2,831万円 | 123.0% |
| 製造業全体 | 249社 | 7,933人 | 1,826億円 | 2,302万円 | 100.0% |
この表から明らかなように、はん用機械器具製造業の1人あたり出荷額は、主要産業の中でトップの数値です。輸送用機械器具産業の2,581万円、窯業・土石製品製造業の2,831万円をも大きく上回っています。
規模と効率性のバランス
はん用機械器具製造業は、事業所数では全体の4.8%、従業者数では8.3%に過ぎませんが、製造品出荷額では13.9%を占めています。これは、規模は小さいながら、極めて効率的に高い付加価値を生み出していることを示しています。
1事業所あたりの平均従業者数は約54.6人で、製造業全体の平均31.9人を大きく上回っています。これは、比較的規模の大きい、組織化された事業所が中心であることを示唆しています。大規模な設備と高度な技術を要する製品を製造するため、一定の規模が必要とされるのでしょう。
高生産性を実現する要因
はん用機械器具製造業がこれほど高い生産性を実現している背景には、いくつかの要因が考えられます:
- 高付加価値製品の製造:単なる部品ではなく、高度な技術を要する完成品や、カスタマイズされた特殊機械を製造しているため、製品単価が高い。
- 設備投資の充実:精密加工機械や検査装置など、高度な設備を導入することで、効率的かつ高品質な生産を実現している。
- 熟練技術者の存在:造船業や重工業の集積地である佐世保には、機械加工や組立の熟練技術者が多く、高度な製品製造が可能。
- 受注生産型ビジネスモデル:顧客の仕様に合わせた製品を製造する受注生産が中心で、量産品よりも利益率が高い。
- 製造業の集積効果:周辺に鉄鋼業、金属加工業、電気機械器具製造業などの関連産業が集積しており、部品調達や技術連携が容易。
- 造船・重工業との連携:佐世保の主力産業である造船業や重工業への納入も多く、大型で高額な機械の需要がある。
産業分類別の位置づけ
製造品出荷額254億円は、産業分類別で見ると第3位の規模です。第1位の輸送用機械器具産業(611億円)、第2位の食料品製造業(294億円)に次ぐ位置にあり、第4位の飲料・たばこ・飼料製造業(132億円)を大きく引き離しています。
事業所数わずか12社でこの規模を達成していることは、1社あたりの平均出荷額が約21.2億円という計算になり、極めて大きな事業規模を持つ企業が集まっていることがわかります。
地域経済への貢献
はん用機械器具製造業は、その高い生産性により、地域経済に以下のような貢献をしています:
- 高水準の雇用創出:655人という雇用規模は製造業全体の8.3%を占め、比較的高い給与水準が期待できる技術職の雇用機会を提供しています。
- 関連産業への波及効果:部品調達や外注加工を通じて、金属製品製造業、鉄鋼業、電気機械器具製造業など、周辺産業にも経済効果をもたらしています。
- 技術力の蓄積:高度な機械製造技術は、地域の製造業全体の技術水準向上に寄与し、他産業への技術移転も期待できます。
- 安定した税収:高い出荷額は、法人税や固定資産税などの税収増加につながり、市の財政に貢献しています。
課題と今後の展望
高生産性を誇るはん用機械器具製造業ですが、今後の発展に向けては以下のような課題もあります:
- 技術継承:熟練技術者の高齢化が進む中、若い世代への技術継承が重要な課題となっています。
- 国際競争:韓国や中国など、アジア諸国の技術力向上により、国際競争が激化しています。さらなる高付加価値化や差別化が必要です。
- IoT・AIの活用:スマートファクトリーやデジタルツインなど、最新技術を活用した生産性向上が求められています。
- 環境対応:省エネルギー、CO2削減など、環境に配慮した製品開発や生産プロセスの見直しが必要です。
- 人材確保:少子高齢化により、優秀な技術者の確保が困難になっています。教育機関との連携や、魅力的な労働環境の整備が求められています。
まとめ
佐世保市のはん用機械器具製造業は、事業所数わずか12社、従業者数655人という小規模ながら、254億円の製造品出荷額を生み出し、従業者1人あたり3,881万円という製造業全体平均の1.7倍の高生産性を実現しています。
この産業は、高度な技術力、充実した設備、熟練技術者の存在、そして造船業や重工業との連携により、高付加価値製品を効率的に生産する「小さな巨人」として、佐世保市の製造業において重要な位置を占めています。
輸送用機械器具産業や食品製造業ほど注目されることは少ないかもしれませんが、高い生産性と技術力を持つこの産業は、佐世保市の製造業の質の高さを象徴する存在です。今後、技術継承や国際競争力の強化に取り組みながら、この強みをさらに発展させていくことが、佐世保市の持続的な経済成長につながるでしょう。
データ出典:佐世保市企画部政策経営課
データ年次:令和3年6月1日現在(事業所数・従業者数)、令和2年1月~12月(製造品出荷額等)
