予防接種件数が6倍に激増―59万回接種が示す佐世保市のコロナワクチン対応
佐世保市の予防接種統計に、歴史的な変化が記録されています。令和3年度の予防接種件数は591,194件と、前年度の10万件から約6倍に急増しました。この驚異的な数字の背景には、COVID-19パンデミックへの対応がありました。
通常の6倍―異例の予防接種体制
佐世保市の予防接種件数の推移を見ると、令和3年度の異常値が際立ちます:
- 令和元年度:97,008件
- 令和2年度:106,953件
- 令和3年度:591,194件(前年比5.5倍)
- 令和4年度:341,819件
- 令和5年度:204,405件
令和3年度の59万回という数字は、人口約23万人の佐世保市で、市民一人当たり2.5回以上の接種が行われたことを意味します。これは主にCOVID-19ワクチンの初回接種(2回)によるものと考えられます。
💉 インサイト:通常の予防接種は継続
興味深いのは、COVID-19ワクチン接種の激増にもかかわらず、通常の予防接種も維持されたことです。日本脳炎ワクチンは令和元年度の9,200件から令和3年度は6,127件に減少しましたが、四種混合ワクチンは6,906件と安定しています。
これは、佐世保市の医療体制が通常の予防接種とコロナワクチンを並行して実施できたことを示しており、地域医療の底力を物語っています。
段階的に減少する接種件数の意味
令和4年度以降、接種件数は段階的に減少していますが、それでも令和5年度の20万件は、コロナ前の2倍以上の水準です。これは:
- 追加接種(3回目、4回目、5回目)の継続
- 高齢者や基礎疾患を持つ方への定期的な接種
- 新たな変異株への対応
を反映していると考えられます。令和5年度でも20万回以上の接種が行われていることから、COVID-19ワクチン接種が「定常的な医療サービス」として定着したことがわかります。
医療機関への負担と対応力
59万回の接種を実施するには、膨大な医療リソースが必要です。佐世保市内の医療機関数を考えると:
- 病院と診療所で接種を実施
- 集団接種会場の設置
- 職域接種の実施
- ワクチン管理・配送の体制整備
といった多層的な体制が構築されたはずです。1日当たりの接種可能数を仮に1,500回とすると、令和3年度だけで約400日分の接種業務が行われた計算になります。
🏥 医療従事者の献身
この膨大な接種業務を支えたのは、医師、看護師、薬剤師、事務スタッフなど、医療従事者の献身的な努力です。通常診療を継続しながら、これだけの接種件数をこなすのは並大抵のことではありません。
佐世保市の医療従事者数(令和4年データ)を見ると、医師719人、看護師約3,500人(推定)という体制で、この歴史的な公衆衛生事業を成し遂げたのです。
通常の予防接種への影響は?
COVID-19ワクチン接種の激増が、通常の予防接種にどう影響したのかを見てみましょう:
- 日本脳炎:令和元年度9,200件 → 令和5年度6,169件(33%減)
- 四種混合:令和元年度7,733件 → 令和5年度6,137件(21%減)
- MR(麻しん風しん):ほぼ横ばい
- BCG:ほぼ横ばい
日本脳炎ワクチンの減少が目立ちますが、これは主に出生数の減少(=接種対象児童の減少)によるものと考えられます。必須ワクチンであるBCGやMRは維持されており、COVID-19対応によって通常の予防接種が犠牲になった、という状況ではないようです。
感染症対策の成果
感染症患者届出数のデータを見ると、興味深い傾向があります。令和元年度から令和5年度にかけて、腸管出血性大腸菌感染症の届出数は年間4~9件と、極めて低い水準で推移しています。
これは、COVID-19対応で強化された手洗い・消毒・衛生管理の習慣が、他の感染症の予防にも効果を発揮している可能性を示唆しています。
今後の展望―ワクチン接種の「新常態」
令和5年度の20万件という水準は、COVID-19ワクチンが季節性インフルエンザワクチンのように、定期的な接種が必要な「通常のワクチン」として定着したことを示しています。
今後の課題は:
- 高齢者や基礎疾患患者への継続的な接種機会の提供
- 新たな変異株への対応
- 接種率の維持(接種疲れへの対処)
- 医療機関の負担軽減
が挙げられます。パンデミックという未曾有の危機への対応で培った迅速な予防接種体制は、今後の新興感染症対策にも活かされるべき貴重な資産です。
佐世保市の予防接種統計は、単なる数字の羅列ではなく、地域医療の底力と、市民・医療従事者の協力の記録なのです。
データ出典:佐世保市統計書(令和6年版)16-A-09, 16-A-10
