人口減少都市で年間1,221戸の新築:佐世保の住宅市場が示す意外な活況
「佐世保に新しい家は建っているのか?」――人口減少が進む地方都市で、住宅建設の動向は都市の活力を測る重要な指標です。統計データから、意外な佐世保の姿が見えてきます。
年間1,200戸超の新築ラッシュ
令和5年度、佐世保市では1,221戸の新築住宅が着工されました。これは前年度の1,127戸から94戸(8.3%)の増加です。
人口減少都市で年間1,200戸以上の新築?これは一見矛盾しているように見えますが、ここに佐世保の住宅事情の複雑さが表れています。
5年間の波:コロナ禍の谷と回復
過去5年間の推移を見てみましょう:
- 令和元年度:1,212戸
- 令和2年度:940戸(22.4%減)
- 令和3年度:1,042戸(10.9%増)
- 令和4年度:1,127戸(8.2%増)
- 令和5年度:1,221戸(8.3%増)
令和2年度の急減は明らかにコロナ禍の影響です。しかし注目すべきは、その後のV字回復。令和5年度は令和元年度の水準を超え、5年間で最多となっています。
💡 なぜ人口減少都市で新築が増えるのか?
人口が減っているのに新築住宅が増える――この現象にはいくつかの理由があります:
- 世帯分離:高齢者と若い世代が別居し、世帯数は増加
- 老朽住宅の建て替え:古い家を壊して新しく建てる
- 住宅の質の向上:より広く、より快適な住宅への需要
- 郊外化:中心部から郊外への人口移動
つまり、人口は減っても住宅需要は減らないという現象が起きているのです。
店舗等併用住宅の激増:278戸の謎
令和5年度のデータで最も注目すべきは、店舗等併用住宅の急増です:
- 令和4年度:2戸
- 令和5年度:278戸(139倍!)
これは統計上の異常値と言ってもいいでしょう。何が起きたのでしょうか?
考えられる可能性:
- 集合住宅の分類変更:1階が店舗の集合住宅が併用住宅に分類された
- 大規模開発:特定の大規模プロジェクトが完成した
- 統計方法の変更:併用住宅の定義や集計方法が変わった
いずれにせよ、この数字は「専用住宅」から「併用住宅」への統計上の移動を示唆しています。
住宅の質:延床面積から見る暮らしの変化
戸数だけでなく、延床面積も重要な指標です。令和5年度の総延床面積は106,018㎡。1戸あたりに換算すると約86.8㎡です。
これは全国平均とほぼ同水準で、佐世保の新築住宅が「狭小住宅」ではなく、ゆとりある住空間を持っていることを示しています。
専用住宅だけで見ると(943戸、84,189㎡)、1戸あたり89.3㎡。これは一般的な3LDKマンションまたは4LDK一戸建てに相当します。
🏠 コロナ禍が変えた住宅需要
令和2年度の急減後、なぜ住宅着工は力強く回復したのでしょうか?
コロナ禍は人々の住まいへの意識を大きく変えました:
- 在宅勤務の普及:仕事部屋が必要になった
- 住環境の重要性:家で過ごす時間が増え、快適性への要求が高まった
- 郊外への関心:密を避け、広い空間を求める動き
- 低金利:住宅ローン金利の低さが後押し
これらの要因が重なり、「今こそマイホームを」という需要が高まったと考えられます。
建築予定額から見る経済効果
用途別着工建築物のデータによれば、令和5年度の住宅専用建築物の工事予定額は約195億円。住宅産業併用建築物の約62億円を合わせると、約257億円もの住宅関連投資が行われています。
これは:
- 建設業者への発注
- 建材・設備メーカーへの需要
- 不動産業者の手数料
- 引っ越し業者の需要
- 家具・家電の購入
など、幅広い経済効果を生み出します。人口減少都市にとって、この約260億円の投資は決して小さくありません。
市営住宅5,275戸:公的住宅の役割
一方で、佐世保市には5,275戸の市営住宅があります(令和6年4月現在)。これは前年度から77戸の減少です。
市営住宅の内訳:
- 公営住宅:4,930戸(93.5%)
- 改良住宅:147戸
- 市単独住宅:119戸
- 特公賃住宅:70戸
民間の新築が年間1,200戸増える一方で、公営住宅は減少。これは、「公から民へ」という住宅政策の転換を示しています。
📍 地域別の偏り
市営住宅の地域別分布を見ると:
- 早岐:1,008戸(最多)
- 本庁:942戸
- 大野:764戸
- 江迎:476戸
- 吉井:423戸
旧市街地や合併前の旧町に多く分布しています。これらの地域では、市営住宅が重要な住居の選択肢となっています。
今後の展望:2025年問題と住宅需要
今後の佐世保の住宅市場はどうなるでしょうか?
需要を押し上げる要因:
- 団塊世代の住み替え需要(バリアフリー住宅など)
- 世帯分離の継続(核家族化)
- 老朽住宅の建て替え需要
- 移住者の受け入れ(佐世保への移住促進策)
需要を押し下げる要因:
- 人口減少の加速
- 空き家の増加
- 若年層の減少
- 経済の先行き不透明感
おそらく、今後数年は年間1,000戸前後の水準が続くでしょう。しかし、2030年代に入ると、人口減少の影響がより顕著になり、新築着工数は徐々に減少していくと予想されます。
だからこそ、今この瞬間の年間1,200戸超という数字は、佐世保の住宅市場の最後の活況期を示しているのかもしれません。
データ出典:佐世保市統計書(令和6年版)
