ビール離れは本当か?佐世保市民の酒類消費から見る嗜好の変化
「ビールが売れなくなった」――そんなニュースを耳にすることが増えました。では、佐世保市民のお酒の飲み方は、実際にどう変わっているのでしょうか?統計データから、意外な事実が見えてきます。
5年間で1,941kℓ減少した酒類消費
佐世保税務署管内の酒類販売(消費)数量は、平成30年の17,076kℓから令和4年には15,135kℓへと、1,941kℓ(11.4%)減少しました。年平均で485kℓずつ減っている計算です。
この数字だけ見ると、「佐世保市民は酒を飲まなくなった」と結論づけたくなります。しかし、データを詳しく見ていくと、もっと複雑で興味深い変化が起きていることが分かります。
ビール離れは本当か?
確かに、ビールの消費は大幅に減少しています:
- 平成30年:4,327kℓ
- 令和2年:2,948kℓ(コロナ禍で急減)
- 令和4年:3,437kℓ
5年間で890kℓ(20.6%)の減少。これは確かに「ビール離れ」と呼べる変化です。
しかし、ここで注目すべきは発泡酒とリキュールの動向です:
- 発泡酒:1,781kℓ → 1,469kℓ(312kℓ減、17.5%減)
- リキュール:4,843kℓ → 4,581kℓ(262kℓ減、5.4%減)
💡 「ビール系飲料」全体で見ると
ビール、発泡酒、リキュール(この中には第三のビールが含まれる)を合計すると:
- 平成30年:10,951kℓ
- 令和4年:9,487kℓ
- 減少率:13.4%
総酒類消費の減少率(11.4%)とほぼ同じです。つまり、「ビール離れ」というより「酒類全体の消費減」と見るべきでしょう。
増えているお酒、減っているお酒
では、どんなお酒が増えているのでしょうか?データを見ると、意外な発見があります:
増加したお酒:
- 清酒:928kℓ → 917kℓ(微減だが、令和3年には900kℓまで減った後に回復)
- ウイスキー:238kℓ → 265kℓ(11.3%増)
- 原料用アルコール・スピリッツ:972kℓ → 1,324kℓ(36.2%増)
減少したお酒:
- ビール:4,327kℓ → 3,437kℓ(20.6%減)
- 単式蒸留焼酎:1,484kℓ → 1,268kℓ(14.6%減)
- その他:1,206kℓ → 769kℓ(36.2%減)
「ハイボールブーム」は佐世保にも
ウイスキーの消費が11.3%増加しているのは、全国的な「ハイボールブーム」が佐世保でも起きていることを示唆しています。ウイスキーはそのまま飲むだけでなく、ハイボールとして手軽に楽しめることが、若い世代を中心に人気を集めています。
また、原料用アルコール・スピリッツの大幅増加(36.2%増)は、家庭でのカクテル作りや、レモンサワーなどのチューハイブームを反映しているのかもしれません。
🍶 日本酒の微減は「質へのシフト」か
清酒(日本酒)は平成30年の928kℓから令和4年には917kℓへと微減していますが、これは必ずしもネガティブな変化ではありません。
全国的に見ると、安価な普通酒の消費は減る一方で、高品質な純米酒や吟醸酒の消費は増えています。量は減っても、単価の高い良質な日本酒を楽しむという嗜好変化が起きている可能性があります。
コロナ禍の影響と回復
令和2年(2020年)のデータを見ると、コロナ禍の影響が鮮明に表れています:
- 総酒類消費:16,260kℓ → 14,964kℓ(7.97%減)
- ビール:3,805kℓ → 2,948kℓ(22.5%減)
特にビールの落ち込みが激しいのは、居酒屋やレストランでの生ビール需要が消失したためでしょう。
一方、令和3年以降は徐々に回復傾向を見せています。令和4年のビール消費3,437kℓは、令和2年の底から16.6%の回復です。
佐世保市民の飲酒スタイルの変化
これらのデータから見えてくる、佐世保市民の飲酒スタイルの変化:
- 飲酒量自体は減少傾向 – 健康志向や人口減少の影響
- ビールから多様な酒類へ – ウイスキー、スピリッツ、多様なチューハイ
- 外飲みから家飲みへ – コロナ禍をきっかけに定着した可能性
- 量より質 – 総消費量は減っても、こだわりの酒を楽しむ傾向
酒販店・飲食店への示唆
このデータは、酒類を扱うビジネスにとって重要な示唆を含んでいます:
- ビール一辺倒からの脱却:ウイスキー、スピリッツ、こだわりの日本酒など、多様な品揃えが必要
- 家飲み需要への対応:小瓶、缶、ペットボトルなど、家庭で楽しみやすい形態
- プレミアム商品の強化:量は減っても、質の高い商品への需要は堅調
- 新しい飲み方の提案:ハイボール、レモンサワー、日本酒カクテルなど
🔮 今後の展望
人口減少と高齢化が進む佐世保市では、酒類消費の総量は今後も減少が続くでしょう。しかし、それは「酒文化の衰退」を意味しません。
むしろ、多様化・高品質化・個性化という新しい酒文化が育ちつつあるのではないでしょうか。大量消費の時代から、それぞれが自分の好みに合った酒を楽しむ時代へ――それが佐世保のデータから読み取れる未来像です。
データ出典:佐世保市統計書(令和6年版)
