処理率100%の裏側:佐世保市の公害苦情142件が語る都市の実像
「公害苦情処理率100%」――佐世保市の統計書に記された、この一見完璧な数字。しかし、この数字の裏には、市民の声と行政の対応という、もっと深い物語が隠されています。
年間142件の公害苦情、その内訳は?
令和5年度、佐世保市には142件の公害苦情が寄せられました。この数字は、前年度の152件から10件減少しています。一見すると、「公害が減っている」とも読めますが、実態はそう単純ではありません。
公害苦情は大きく2つに分類されます:
- 典型七公害(97件、68.3%):大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、悪臭、土壌汚染、地盤沈下
- その他の公害(45件、31.7%):典型七公害に分類されない環境問題
💡 騒音苦情が最多の31件
典型七公害の中で最も多いのが騒音(31件)、次いで大気汚染(39件)と悪臭(17件)です。これは都市部特有の問題と言えるでしょう。
興味深いのは、水質汚濁が9件と比較的少ないこと。これは佐世保市の下水道整備が進んでいることの表れかもしれません。
処理率100%は本当に「完璧」なのか?
令和5年度の公害苦情処理率は100%。前年度の152件もすべて処理され、新たな繰越もありません。数字だけ見れば完璧です。
しかし、ここで立ち止まって考えてみましょう。「処理」とは何を意味するのでしょうか?
- 苦情の原因が完全に解消された?
- 行政が何らかの対応をした?
- 苦情者への説明が完了した?
統計データからは、「処理」の具体的な内容は分かりません。100%という数字は、「行政が全ての苦情に対応した」ことは示していますが、「全ての公害が解決した」ことを意味するわけではないのです。
5年間のトレンドが示す佐世保の環境変化
令和元年度から令和5年度までの5年間を見ると、興味深い変化が見えてきます:
- 令和元年度:140件
- 令和2年度:207件(大幅増加!)
- 令和3年度:175件
- 令和4年度:152件
- 令和5年度:142件(5年間で最少)
令和2年度の207件という突出した数字は何を意味するのでしょうか?コロナ禍で在宅時間が増え、これまで気づかなかった環境問題に気づいた人が増えたのかもしれません。あるいは、特定の大規模工事や事業活動による一時的な増加だったのかもしれません。
🔍 典型七公害以外の苦情が増加傾向
典型七公害以外の苦情は、令和元年度の50件から令和5年度には45件とやや減少していますが、令和2年度には94件まで急増しています。これは、「公害」の概念が拡大していることを示唆しています。
光害、電波障害、景観問題など、従来の典型七公害には分類されない新しいタイプの環境問題への関心が高まっているのかもしれません。
苦情の背景にある佐世保の都市構造
公害苦情の内容は、その都市の産業構造や生活様式を反映します。佐世保市の場合:
- 騒音(31件):住宅地と商業地・工業地の近接、道路交通、建設工事
- 大気汚染(39件):工場や事業所からの排出、野焼き、自動車排気ガス
- 悪臭(17件):飲食店、工場、廃棄物処理
- 水質汚濁(9件):事業所排水、生活排水
これらの苦情分布は、佐世保が「住・商・工が混在する港町」という性格を持つことを物語っています。完全に区画整理された計画都市ではなく、歴史的に発展してきた都市特有の課題が見えてきます。
「苦情ゼロ」を目指すべきか?
ここで一つ、重要な問いがあります。「公害苦情がゼロの都市」は理想なのでしょうか?
答えは必ずしも「イエス」ではありません。苦情件数が少なすぎる場合、以下の可能性も考えられます:
- 市民が苦情を言いにくい雰囲気がある
- 苦情受付のシステムが周知されていない
- 環境問題への関心が低い
適度な苦情件数は、むしろ「市民が環境問題に関心を持ち、行政に声を届けられる健全な関係」の証とも言えます。佐世保市の年間140〜150件という水準は、決して多すぎるわけではなく、むしろ市民と行政のコミュニケーションが機能している証拠かもしれません。
処理率100%の真価
最後に、「処理率100%」という数字の本当の価値について考えてみましょう。
この数字が示すのは、佐世保市が全ての市民の声に対応しているという事実です。苦情が多かろうと少なかろうと、繰り越しゼロで全て処理する。これは簡単なことではありません。
環境保全課の職員が、一件一件の苦情に向き合い、現場調査を行い、事業者と交渉し、市民に説明する――その地道な努力の積み重ねが、この100%という数字を支えているのです。
🌱 市民として私たちができること
公害苦情のデータを見て、私たちができることは何でしょうか?
- 環境問題に遭遇したら、遠慮せずに市に相談する
- 自分自身も公害の加害者にならないよう配慮する
- 近隣とのコミュニケーションを大切にする
処理率100%という数字は、「行政が頑張っている」という意味だけでなく、「市民の声を大切にする文化がある」という佐世保市の姿勢を表しているのです。
データ出典:佐世保市統計書(令和6年版)
