5年で1700頭減少―佐世保市の犬登録数が語るペット飼育の変化
佐世保市の犬登録数が、5年間で約1,700頭減少しています。令和元年度の12,054頭から令和5年度には10,333頭へと、14%の減少です。この数字は、ペット飼育を巡る社会変化を浮き彫りにしています。
1万頭を割り込んだ犬登録数
佐世保市の犬登録数の推移を見ると、減少傾向が鮮明です:
- 令和元年度:12,054頭
- 令和2年度:11,494頭(-560頭)
- 令和3年度:11,143頭(-351頭)
- 令和4年度:10,839頭(-304頭)
- 令和5年度:10,333頭(-506頭)
年平均で約400頭ずつ減少しており、このペースが続けば令和10年には9,000頭を下回る可能性があります。
🐕 インサイト:なぜ犬が減っているのか?
犬登録数の減少には、複数の要因が考えられます:
- 高齢化:高齢者が新たに犬を飼うことをためらう傾向
- 住宅事情:ペット不可の賃貸物件の増加
- 経済的理由:犬の飼育費用(餌代、医療費、トリミング代など)の負担
- ライフスタイル:共働き世帯の増加で、犬の世話が困難
- 猫へのシフト:散歩不要な猫の人気上昇
特に注目すべきは、人口減少率(年1~2%)を上回る速度で犬が減っていることです。これは単なる人口減少だけでは説明できない、ペット飼育に対する価値観の変化を示唆しています。
狂犬病予防注射率の低下
犬登録数の減少以上に深刻なのが、狂犬病予防注射の接種率低下です:
- 令和元年度:登録12,054頭、注射9,099頭(接種率75.5%)
- 令和2年度:登録11,494頭、注射8,375頭(接種率72.9%)
- 令和3年度:登録11,143頭、注射8,505頭(接種率76.3%)
- 令和4年度:登録10,839頭、注射7,998頭(接種率73.8%)
- 令和5年度:登録10,333頭、注射7,780頭(接種率75.3%)
接種率は70~76%の間で推移していますが、法律で義務付けられている狂犬病予防注射の接種率が75%前後にとどまっているのは問題です。理想的には接種率90%以上が望ましいとされています。
捕獲・返還・引取りの実態
迷い犬や放棄犬の状況も、ペット飼育の現実を映し出しています:
- 捕獲数:令和元年度68頭 → 令和5年度32頭(53%減)
- 返還数:令和元年度53頭 → 令和5年度28頭(47%減)
- 引取り犬:令和元年度13頭 → 令和5年度8頭(38%減)
捕獲数の減少は、登録犬の減少と飼い主のマナー向上を反映しています。返還率(捕獲された犬が飼い主に返還される割合)は約78~88%と高く、マイクロチップや鑑札による個体識別が機能していることがわかります。
📉 引取り犬の減少が示すもの
引取り犬(飼い主が手放した犬)が年間8~13頭と少ないのは、殺処分ゼロを目指す取り組みの成果でもあります。佐世保市を含む長崎県では、保護犬の譲渡活動が活発に行われています。
ただし、この数字には「保健所に持ち込まれる前に、知人に譲渡や動物愛護団体に引き渡される犬」は含まれていません。実際にはもっと多くの犬が、何らかの理由で飼い主を変えていると考えられます。
犬から猫へ―ペット飼育のシフト
犬登録数は減少していますが、これは「ペット離れ」を意味するわけではありません。近年、猫の人気が犬を上回っているという全国的なトレンドがあります。
猫が人気の理由:
- 散歩不要で、共働き世帯でも飼いやすい
- 鳴き声が小さく、集合住宅でも飼いやすい
- 犬に比べて体が小さく、スペースを取らない
- 猫カフェやSNSでの猫人気
ただし、猫には登録義務がないため、統計データでは猫の飼育状況を把握することができません。もしかすると、佐世保市でも犬が減った分、猫が増えている可能性があります。
埋火葬体数から見るペット事情
統計書の「埋火葬体数」には、主に人間の火葬データが記載されていますが、ペット霊園などでの火葬件数は含まれていません。
犬の平均寿命は約14年とされているので、令和5年度の登録犬10,333頭のうち、年間約700~800頭が寿命を迎えていると推定されます。これらの犬の多くは、ペット霊園で火葬され、丁寧に弔われています。
今後の展望―共生社会の実現に向けて
犬登録数の減少は、一見すると寂しいニュースですが、見方を変えれば「責任を持って飼える範囲でペットを飼う」という成熟した社会への移行とも言えます。
今後の課題は:
- 狂犬病予防注射の接種率向上:90%以上を目標に
- マイクロチップの普及:迷子犬の早期返還
- 適正飼育の啓発:最期まで責任を持って飼う
- 保護犬の譲渡促進:殺処分ゼロの維持
- 猫の適正飼育:室内飼いと不妊去勢の推進
ペットは家族の一員です。統計データの背後には、それぞれの犬と飼い主のかけがえのない絆があります。数字の増減だけでなく、その質―つまり、犬も人も幸せな共生関係を築けているか―が重要です。
佐世保市の犬登録数の推移は、私たちに「ペットとの向き合い方」を問いかけているのかもしれませ
データ出典:佐世保市統計書(令和6年版)16-B-01
